京都地方裁判所 昭和41年(行ウ)19号 判決 1969年10月29日
京都市右京区太秦石垣町二四番地
原告
岡部むる
同所同番地
原告
岡部義春
同所同番地
原告
岡部照子
原告ら訴訟代理人弁護士
梅林明
京都市右京区西院花田町一〇番地
被告
右京税務署長
山村秀雄
指定代理人検事
北谷健一
同代理人法務事務官
江藤邦弘
同上
下脇光夫
同上
森本光男
同上
吉田重夫
同代理人大蔵事務官
多田稔
同上
竹見富夫
同上
高田安三
主文
原告らの請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一、申立
一、原告ら
「被告が、原告らに対し、昭和四〇年一一月二七日付でなした訴外亡岡部徳治郎の昭和三七年度所得税額を金一、五九五、〇五〇円とする再更正処分のうち金一一一、一〇〇円を超える部分および右訴外人の右年度所得税に関する過少申告加算税額を金七四、一五〇円とする賦課処分を、いずれも、取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」
との判決を求めた。
二、被告
主文同旨の判決を求めた。
第二、主張
一、原告ら
(請求の原因)
(一) 原告らの先代である訴外亡岡部徳治郎は、昭和三七年一二月二九日死亡し、原告むるはその妻、原告義春はその養子、原告照子はその長女として、右訴外人の遺産を共同相続した。
(二) 原告らは、昭和三八年四月二六日、被告に対し、亡岡部徳治郎の相続人として、同人の昭和三七年度総所得金額を金三四二、八六五円、所得税額を〇円とする準確定申告をしたところ、被告から、同年一〇月一一日付で、総所得金額を金一、一二八、八五五円、所得税額を金一一一、一〇〇円とする更正処分がなされ、さらにそれの確定したのちの昭和四〇年一一月二七日付で、総所得金額を金五、〇一七、〇五三円、所得税額を金一、五九五、〇五〇円とする再更正処分ならびに過少申告加算税額を金七四、一五〇円とする賦課処分がなされ、そのころ、これを原告らに通知してきた。
(三) そこで、原告らは、昭和四〇年一二月八日、被告に対し異議の申立をしたが、昭和四一年一月二六日、棄却されたので、同年二月二五日、大阪国税局長に対し、審査の請求をしたところ、同年七月二七日、同局長からこれを棄却する裁決がおこなわれ、同年八月一〇日これを原告らに通知してきた。
(四) しかしながら、被告のなした前記の再更正処分および過少申告加算税賦課処分は、亡岡部徳治郎の譲渡所得を過大に認定したことに基づいてなされた違法な処分であること明白である。
よつて、原告らは、被告を相手とり、これら処分の取消を求めるわけである。
二、被告
(請求の原因に対する答弁)
(五) 請求の原因(一)ないし(三)記載の事実は、いずれも、認める。
(六) 同(四)記載の事実は、否認する。
(被告の主張)
(七) 亡岡部徳治郎の昭和三七年度総所得金額を調査すると、同年度農業所得が金三〇、二四〇円あるほか、右訴外人は、昭和三七年四月二六日、訴外小川正一に対し別紙目録(イ)の田一筆(以下譲渡資産という。)を売渡し、代金一三、〇八〇、〇〇〇円を受取つたが、それの譲渡原価は金四三二、七二〇円であつたところ、同年七月三日、訴外中村源治郎から、別紙目録(ロ)の畑二筆(以下、取得資産甲地という。)を買受け、代金および仲介手数料に金二、六一〇、〇〇〇円を支払つているから、租税特別措置法第三五条第一項(昭和三八年法律第六五号による改正前のもの)の耕作用財産買換の場合の特例(以下、買換特例という。)にしたがうとき、同年度譲渡所得が金四、九八六、八一三円あつたことになる。
(八) ところで、原告らは、昭和三八年三月ごろ、訴外宮本房次郎から、別紙目録(ロ)の田三筆(以下、取得資産乙地という。)を買受け、代金および仲介手数料に金八、〇四二、五〇〇円を支払つているのを、亡岡部徳治郎が昭和三七年一二月五日に売買したものとし、買換特例にしたがつて右訴外人の譲渡所得を算定すべきものというようであるけれども、乙地については、買受人が亡岡部徳治郎でないことおよび買受日が昭和三七年度内でないことが明白であるから、買換特例を適用する余地はないものである。
仮に、亡岡部徳治郎が昭和三七年一二月五日に乙地の売買契約を締結したものとしても、それに対する農地法第三条の許可をうけたのは昭和三八年五月一〇日であつて、当該年度内に同上の許可を得ていないことおよび亡岡部徳治郎は買換資産の乙地を事業の用に供していないことから、乙地の取得については買換特例が適用されないとすべきである。
(九) 以上により、亡岡部徳治郎の昭和三七年度総所得金額は五、〇一七、〇五三円、これに対する所得税額は金一、五九五、〇五〇円、過少申告加算税額は金七四、一五〇円となること計算上明白であるから、被告のなした再更正処分および過少申告加算税賦課処分はいずれも適法なものというべきである。
三、原告ら
(被告の主張に対する答弁および反論)
(十) 被告の主張(七)記載の事実のうち、亡岡部徳治郎の昭和三七年度譲渡所得の金額は否認し、残余の部分はすべて認める。
(十一) 同(八)記載の事実のうち、乙地の代金および仲介手数料の金額ならびにこれらが支払われていること、乙地の売買に対する農地法第三条の許可が主張の日時になされたことは認めるが、残余の部分はすべて否認する。
乙地は、真実、亡岡部徳治郎が昭和三七年一二月五日に訴外宮本房次郎から買受けたものにまちがいないゆえ、乙地の取得について買換特例の適用されるべきことはいうまでもない。
しかも、農地法第三条の許可は、同法上必要とされる手続であるにすぎなく、したがつて、買換資産に対する売買契約が当該年度内に締結されておれば買換特例が適用されるものと解すべきであるし、また、亡岡部徳治郎は自己の負担と責任において、訴外宮本房次郎らに依頼し、乙地を耕作し、農耕事業に供していたのであるから、買換特例の除外される事由はいささかも存しないのである。
(十二) 同(九)記載の事実のうち亡岡部徳治郎の昭和三七年度総所得金額にふくまれる農業所得の部分は認めるけれども、残余のものはいずれも否認する。ただし、仮に、被告主張のとおり乙地の取得について買換特例の適用がないとした場合に、被告主張のような計算となることは認める。
第三、証拠
一、原告ら
甲第一ないし第六号証、第七号証の一ないし三、第八号証を提出し、証人高橋重吉、同宮本房次郎および同岡崎宏の各証言ならびに原告岡部照子本人尋問の結果を援用し、乙第一、二号証の各成立は不知、その余の乙号各証の成立を認める、と述べた。
二、被告
乙第一ないし第一一号証、第一二および第一三号証の各一ないし四を提出し、証人辻彦彰および同吉川元久の各証言を援用し、甲第二および第八号証の各成立は不知、その余の甲号各証の成立を認める、と述べた。
理由
一、原告らが、昭和三七年一二月二九日、訴外亡岡部徳治郎の死亡にもとずき、主張するとおり、右訴外人の遺産を共同相続したこと、被告が原告らのなした右訴外人の昭和三七年度総所得金額を金三四二、八六五円、所得税額を〇円とする準確定申告について、昭和三八年一〇月一一日付で総所得金額を金一、一二八、八五五円、所得税額を金一一一、一〇〇円とする更正処分をなし、右更正処分は確定したが、さらに、昭和四〇年一一月二七日付で、総所得金額を金五、〇一七、〇五三円、所得税額を金一、五九五、〇五〇円とする再更正処分ならびに過少申告加算税額を金七四、一五〇円とする賦課処分をし、これらを原告らに通知したこと、原告らが主張のとおり右各処分に対し異議の申立と審査の請求をしたがいずれも棄却され、原告らに通知されたことは当事者間に争いがなく、本件訴訟が昭和四一年一一月九日提起されたことは、当裁判所に顕著な事実である。
二、そこで、亡岡部徳治郎の昭和三七年度総所得金額を検討するとき、農業所得が被告の主張するとおりであることは原告らが認めて争わなく、譲渡所得については、右訴外人が同年度内に別紙目録(イ)および(ロ)の譲渡資産または取得資産甲地を被告の主張するような代金額と譲渡原価で売渡しまたはいうような代金額と仲介手数料で買受けていることは同じく争われないところであるから、甲地に買換特例が適用されることは明白であるけれども、別紙目録(ロ)の取得資産乙地については、証人辻彦彰、同高橋重吉の各証言で真正に成立したものと認められる乙第一、第二号証、成立の争われない乙第三ないし第一〇号証、証人高橋重吉、同宮本房次郎の各証言を総合すると、乙地は原告らが、昭和三八年三月ごろ、訴外宮本房次郎から買受けてこれを取得したもので、亡岡部徳治郎が、昭和三七年一二月二九日死亡する以前あるいは原告らが同年同月三一日までの間に取得したものではないことが認められ右認定に反する証人岡崎宏の証言、原告岡部照子本人尋問の結果ならびに成立の争われない乙第六および第一一号証の各記載は、前掲各証拠に照し、にわかに措信できなく、また、証人岡崎宏および証人宮本房次郎の各証言で真正に成立したものと認められる甲第二号証の不動産売買契約書によれば、乙地(分筆前のもの)の買主は亡岡部徳治郎で、かつ、その売買契約書の作成日付が昭和三七年一二月五日と記載されていることが認められるけれども、前記乙第一、第一〇号証および証人宮本房次郎の証言を総合すれば、右甲第二号証は、昭和三八年三月ごろに作成されたものであるが、原告らの要請によつて、ことさら買主を訴外岡部徳治郎となし、その作成日付を昭和三七年一二月五日と記載されたことが認められ、これに反する証人岡崎宏の証言および原告岡部照子本人尋問の結果は措信できず、その他に右認定を動かす証拠はなく、さらに、証人宮本房次郎、同高橋重吉の各証言ならびに原告岡部照子本人尋問の結果で真正に成立したものと認められる甲第八号証によれば、亡岡部徳治郎が昭和三七年一二月五日に乙地を訴外宮本房次郎から買受けたことを推認させる記載があるけれども、証人宮本房次郎の証言によれば、同人が右甲第八号証を初めて見たのは昭和四一年七月八日であることが認められ、これに反する原告岡部照子本人尋問の結果はたやすく措信できず、その他に右認定を左右する証拠はないので、右甲第二および第八号証の存在も前記認定の妨げとならなく、他にこれをくつがえすに足る証拠はない。そうだとすれば、進んで爾余の点について、判断するまでもなく、乙地について買換特例が適用されることはないというべきであるから、前記年度譲渡所得は金四、九八六、八一三円になるものとすべきである。
三、以上により、亡岡部徳治郎の昭和三七年度総所得金額は、前記のような農業所得の金額に譲渡所得の金額を合算すれば金五、〇一七、〇五三円となること計算上疑をいれなく、これに対する所得税額および過少申告加算税額が被告主張のとおりとなることについては原告らの認めるところであるから、被告のなした本件再更正処分および過少申告加算税賦課処分はいずれも適法なものと断ずべきである。
四、よつて、原告らの本訴請求は、いずれも理由がないので、これを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 松本正一 裁判官 常安政夫 裁判官 赤木明夫)
目録
(イ) 譲渡資産
京都市右京区太秦土本町一五番地
一、田 二反一畝二四歩(二、一六一・九八平方メートル)
(ロ) 取得資産
甲地
同市同区山田谷田山一番地の三七
一、畑 一反二畝二三歩(一、二六六・一一平方メートル)
同所同番地の三八
一、畑 一反二畝〇〇歩(一、一九〇・〇八平方メートル)
乙地
同市同区下津林大般若町五四番地の一
一、田 八畝〇八歩(八一九・八三平方メートル)
同所同番地の二
一、田 八畝一〇歩(八二六・四四平方メートル)
同所同番地の三
一、田 八畝一〇歩(八二六・四四平方メートル)
以上